東京地方裁判所 昭和46年(ワ)4212号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕その請求原因として、つぎのとおりのべた。
「一 原告は、昭和四三年五月二八日現在、次の(1)および(2)の考案については、日本国の特許庁に実用新案登録出願をし、(3)の発明については、アメリカ合衆国に特許出願をしていた。
(1) 考案の名称 着換用人形
出願日 昭和四二年九月二六日
出願番号 昭四二―八一六三九号
(2) 考案の名称 膨脹小型玩具シート
出願日 昭和四二年一〇月一三日
出願番号 昭四二―八六五七六号
(3) 発明の名称 自己シール弁
出願日 昭和四二年九月二六日
出願番号 V―一七―一
右(1)については、昭和四五年一二月一九日拒絶理由の通知がされ、原告はその後昭和四六年三月三一日その出願を放棄し、(2)は、昭和四五年八月二一日その出願について拒絶査定がされ、手続はそのまま終了した。(3)の発明については、その後昭和四三年九月二四日日本国特許庁に特許出願(出願番号昭四三―六八三四六号)し、現在特許庁で審査中である。
二 昭和四三年五月二八日、原告は被告との間で、次のとおりの技術援助契約(以下「本件契約」という。)を締結した。すなわち、原告は、前項(1)ないし(3)の考案および発明を具体化したビニール玩具あるいはビニール製飾り人形を組み込んだ子供向け書物の製造販売権を被告に独占的に与え、被告は、原告に対し、実施料として、被告の製造販売するすべての製品の請求書記載価格―被告が本件契約に基づいて販売した製品の買受人に対して発する請求書に記載された販売価格―に対する五パーセントに相当する金額を支払う、ただし、第一年度最少額の支払の保証として本件契約実施後遅滞なく金四、五〇〇ドル、第二年度分および第三年度分の実施料としてそれぞれ昭和四四年(一九六九年)、昭和四五年(一九七〇年)の七月一日および一〇月一日に各金四、〇〇〇ドルずつ各年度二回に分割して支払う。契約期間は、本件契約を日本政府が認可した日から三か年間とし、原告は、第一回支払金四、五〇〇ドル受領後ただちに、被告に対し、本件考案・発明の技術に関する仕様書、図面、設計、研究および開発の情報、生産プラン、見本、未加工材料加工処理方式ならびに製品の包装方法を含む一切のノウハウを供給する。
以上のような内容の契約であつた。<後略>
〔判決理由〕二 被告は、すくなくとも本件契約が認可され、第一年度の実施料支払期までには本件各考案・発明が登録され、独占権を有しうるものと信じて本件契約を締結したものであるところ、本件契約の対象たる考案のうち、一つは原告の出願放棄により、他は拒絶査定により、いずれも権利化されないことが確定し、また、原告主張の発明については、現在に至るもまだわが国において公告されていないから、被告には本件考案・発明が独占権をもちうると信じた点について錯誤があり、しかも、右錯誤は要素の錯誤であるから、本件契約は無効であると主張する。
しかしながら、本件契約の前文には、原告が主張するとおり、
(イ) 原告が二つの考案について実用新案登録出願中であり、当時米国で出願中であつた発明につき日本でも特許出願をする予定であり、かつ、右考案・発明につき一定のノウハウを有していること
(ロ) 被告が右考案および発明について実施権を取得することを希望していること
が記載されており、被告は、本件契約の目的である考案・発明が未だ登録・特許されていないことを充分知つた上で本件契約を締結したものであることが認められる。しかして、契約締結時に登録・特許になつていない考案・発明になつていない考案・発明を契約の目的とする場合、契約の相手方に独占的実施権を与えるという意味は、考案・発明等を実施することを契約の相手方にのみ認めるという趣旨に解すべきものである。さらに、被告が、本件契約の対象たる本件考案・発明はかならず登録され、特許されるものであると信じていたという点についての証明はなく、かえつて、その成立について争いのない甲第一号証によれば、そうでなかつたことが推認される。
そうすると、本件契約の対象たる考案のうち、一つは原告の出願放棄により、他は拒絶査定により、いずれも権利化されないことが確定したことは、前認定のとおりであるが、本件契約は被告の錯誤により無効であるということはできない。被告の主張は理由がない。
三 次に、被告の木件契約解約の主張について考える。
本件契約書の第八条第二項によれば、本件契約は三か月もしくはそれ以上の期間をおいた書面通知により、各年度の終りにおいてこれを終了させることがでることになつていることを認めることができる。被告は、本件契約における第二年度の終りとは昭和四六年一月九日であり、被告はそれより三か月以上前に原告に対し解約の意思表示をしたから、本件契約は第二年度の終りである昭和四六年一月九日の経過において終了し、したがつて、同月一〇日から始まる本件契約の第三年度分の最少支払保証額金八、〇〇〇ドルを支払う債務はないと主張するのに対し、原告は、本件契約における第三年度とは契約締結の日を基準として計算すべきものであり、仮に被告の解約の意思表示があつたとしても、それにより本件契約は消滅しないから、被告は昭和四五年七月一日および同年一〇月一日に支払うべき各金四、〇〇〇ドルの債務を原告に対して負つていると主張する。
本件契約は、「外資に関する法律」第一〇条により、主務大臣の認可を要すべきところ、成立に争いのない乙第三号証によれば、本件契約は、昭和四三年一二月九日に認可申請され、翌昭和四四年一月一〇日に認可されたことを認めることができる。しかして、本件契約書第八条第一項には、「本契約は、本契約についての日本政府の認可の日から効力を発生し、以後三年間有効とする。」旨の記載がある。一方、第五条第三項には、「実施権者は実施許諾者に対して第一年目に支払われる実施料の一年間の最少額の支払の保証として本契約実施後遅滞なく米貨四、五〇〇ドルを支払うものとし、第二年度及び第三年度については、一九六九年及び一九七〇年の七月一日及び一〇月一日に米貨各四、〇〇〇ドル宛二回に分割して支払うものとする。」とあり、少なくとも第二年度および第三年度の実施料最少支払保証額の支払は確定日にされるべきことを定めているが、右にいう第二年度および第三年度とは、右両条項を総合勘案するときは、前記本件契約が主務大臣の認可によつて効力を発生した昭和四四年一月一〇日を基準として算定した期間をいうものと解すべきものである。したがつて、本件契約における第二年度とは昭和四五年一月一〇日に始まり昭和四六年一月九日に終る期間、第三年度とは昭和四六年一月一〇日に始まり、昭和四七年一月九日に終る期間である。
原告は、本件契約書第八条に、本件契約が日本政府の認可の日から効力を発する旨の記載があるのは、認可申請技術上そうされたのであつて、実施料の計算に関する当事者の合意は、本件契約締結時である昭和四三年五月二八日から三年間の約であつたと主張するが、そのように解すべき証拠はない。なるほど、証人大井達男の証言ならびに原告代表者本人尋問の結果を総合すると、被告は、原告を通じて米国のウエスタン・パブリシッング社から、その納期を本件契約の認可前である昭和四三年一二月とする、本件考案・発明を用いて製作する子供向け絵本五万部の注文を受けたこと、原告代表者は、本件契約締結後ただちに被告に対して本件考案・発明に関するノウ・ハウを開示して、製品の製造について指導したことを認めることができるが、右のような事実だけでは、本件契約を前認定と異なつて原告主張のように解すべきであるとする根拠にはならない。
被告が昭和四五年六月二日付の書留郵便(発送は同月二九日)により、原告に宛て本件契約を解約する旨の通知をし、同通知が同年七月中に原告に到達したことは、成立に争いのない乙第四号証ないし第六号証、証人大井達男の証言、原告および被告各代表者本人尋問の結果を総合してこれを認めえられ、これに反する証拠はないところ、右到達の日が本件契約における第二年度の終期である昭和四六年一月九日より三か月以上前のことであることは明らかであるから、本件契約は右期日の経過とともに終了したものというべきである。
そうすると、被告には本件契約の第三年度分の実施料最少支払保証額を支払うべき債務はないから、その支払を求める原告の請求は、他の点についての判断をするまでもなく失当であるといわなければならない。よつて、原告の請求を棄却し、主文のとおり判決する。
(荒木秀一 高林克巳 清水利亮)